「最近、子どもが学校に行きたがらない」「部屋に閉じこもってゲームばかり」「表情が暗くて、何を考えているかわからない」——思春期を迎えた発達障害のあるお子さんの様子に、不安を感じていませんか?
発達障害のある子どもは、思春期に「二次障害」と呼ばれる新たな困難を抱える可能性があります。二次障害とは、発達障害そのものではなく周囲の無理解やストレスの蓄積によって二次的に生じる心身の問題のことで、不登校、ゲーム依存、うつ病、不安障害などが含まれます。
でも、安心してください。二次障害は適切な理解とサポートがあれば予防できる可能性があります。早期に気づいて適切な対応をすることで、深刻化を防ぐこともできるんです。今回の記事では、専門家ではない保護者の立場でできることを中心に実践的な内容をご紹介していきますね。
二次障害とは【基礎知識と予防の考え方】
二次障害について正しく理解することが、予防の第一歩です。「何が起こっているのか」「なぜ思春期に表面化しやすいのか」そして最も大切な「予防できる」という視点について見ていきましょう。
二次障害の定義と思春期に起こりやすい理由
発達障害そのもの(ADHD、ASD、SLDなど)を「一次障害」と呼ぶのに対し、その特性によって生じる環境とのミスマッチや、周囲からの否定的な対応が積み重なって生じる問題を「二次障害」と呼びます。
一次障害である発達障害の特性は本人の努力不足や育て方の問題ではありません。でも、その特性が理解されず「努力が足りない」「わがまま」などと誤解され続けると、お子さんは深く傷つき、自信を失っていきます。
思春期は学習内容が抽象的で複雑になり、友人関係も複雑化します。自分と他者を比較する力が発達することで、自分の「できなさ」に気づき、劣等感を抱きやすくなるんですね。こうした複合的な要因が重なって、それまで何とか適応してきたお子さんが、思春期に心のバランスを崩してしまうことがあるんです。
重要なのは二次障害は発達障害の必然的な結果ではなく、環境や関わり方によって予防できる可能性があるという視点を持つことが大切です。
二次障害を引き起こす3つの要因
二次障害の背景には、主に3つの要因があります。
1つ目は、失敗体験の蓄積と自己肯定感の低下
幼い頃から「できない」「わからない」という経験を重ね、「自分はダメな人間だ」という否定的な自己イメージが形成されていきます。思春期になって自己を客観視する力が発達すると、この自己肯定感の低さがより深刻な問題として表面化するんですね。
2つ目は、周囲の無理解と孤立感
発達障害の特性は外見からはわかりにくいため、「本人の努力不足」と誤解されることがあります。周囲から理解されないという経験は、深い孤立感をもたらし、心を閉ざしていく原因となります。
3つ目は、過度なストレスと対処能力の限界
発達障害のある子どもは、定型発達の子どもが何気なくこなしている日常生活でも、多くのエネルギーを使っています。こうしたストレスが蓄積し、対処能力を超えてしまうと、心身のバランスが崩れてしまうわけです。
予防の基本は「自己肯定感を守ること」
では、どうすれば二次障害を予防できるのでしょうか?答えはシンプルで、「お子さんの自己肯定感を守り、育てること」です。日常の関わりの中で、お子さんの存在そのものを肯定するメッセージを伝え続けましょう。「あなたがいてくれて嬉しいよ」「あなたは大切な存在だよ」といった言葉は、お子さんの心の支えになります。
また、できたことよりも、努力したプロセスを認めることが重要です。「頑張ったね」「挑戦したことが素晴らしいよ」という言葉で、結果に関わらず努力を評価してあげてください。比較や否定的な言葉は避け、お子さんの良いところに目を向ける習慣をつけることも大切ですね。
失敗体験が積み重なると自信を失ってしまうので、意識的に成功体験を積める機会を作ることも忘れずに。お子さんの得意なことや好きなことで「できた」という経験を積むことが、全体的な自信につながります。
不登校・依存・うつのサインと初期対応
二次障害には様々な形がありますが、思春期に特に多いのが「不登校、ゲーム・ネット依存、うつ病・不安障害」です。それぞれのサインと初期対応について、具体的に見ていきましょう。
不登校の前兆サインと適切な初期対応
不登校は突然始まるように見えても、多くの場合、前兆となるサインがあります。朝起きられない、頭痛や腹痛を頻繁に訴える、学校の話を避ける、表情が暗い、学校に行く準備を極端に遅くするなど。「学校に行きたくない」と直接訴えることもあるでしょう。
お子さんから「学校に行きたくない」と言われた時、まず大切なのは、お子さんの気持ちを否定せず受け止めること。「そんなこと言わないで」「みんな行ってるんだから」といった言葉は、お子さんをさらに追い詰めてしまいます。「そう感じているんだね」「何か辛いことがあったのかな」と、まずは共感的に聴く姿勢を示してください。その上で、具体的に何が辛いのか、焦らず丁寧に聞き取っていきます。この段階では、無理に登校を促すより、お子さんの心身の状態を最優先に考えることが大切です。
そして、早めに学校の担任やスクールカウンセラーに相談してみましょう。「こんなことで相談していいのか」と迷わないでください。早期の相談が早期の解決につながることも多いんです。心身が限界を迎えているお子さんを無理に登校させることはうつ病や不安障害などのより深刻な二次障害につながる可能性があります。「今は休むことが必要」という選択肢も認めることが大切です。休養期間は決して「無駄な時間」ではなく、心身を回復させ、次のステップに進むための大切な時間になります。
ゲーム・ネット依存の判断基準と段階的対応
発達障害のある子どもはゲームやネットに依存しやすい傾向があります。ゲームの世界では明確なルールがあって予測可能性が高く、現実世界では失敗が多い子どもでも、ゲームでは成功体験を得やすいからです。
単にゲームが好きなのと、依存状態になっているのは違います。生活リズムの乱れ(昼夜逆転、食事を摂らない)、学校や約束を無視してゲームを続ける、ゲームができないと激しくイライラする、現実の人間関係に興味を失う——こういった状態が見られたら、依存が疑われます。依存を予防するには、使い始める段階から家庭でのルールを明確にしておくことが大切です。「平日は1時間まで」「宿題が終わってから」「夜9時以降は使わない」など、お子さんと一緒に具体的なルールを決めましょう。一方的に押し付けるのではなく、なぜそのルールが必要か説明し、お子さんの意見も聞きながら決めることがポイントです。
既に依存傾向が見られる場合はいきなりゲームを取り上げることは逆効果になることもあります。まずはお子さんとゲームについて話し合う時間を持ち「ゲームの何が楽しいのか、現実生活で何が辛いのか」を丁寧に聴いていきます。頭ごなしに否定せずにまずは理解しようとする姿勢が大切です。その上で、段階的にゲーム時間を減らしていく計画を立てていきましょう。
うつ病・不安障害の危険なサインと緊急対応
思春期のうつ病は、「悲しい」「憂うつ」といった典型的な症状よりも、イライラ、反抗的な態度、無気力、身体症状(頭痛、腹痛など)として現れることが多いんです。以前と比べて明らかに変化が見られる場合は要注意。好きだったことに興味を示さなくなる、友達と会いたがらなくなる、成績が急に下がる——こうした変化が2週間以上続いているなら、専門機関への相談を検討しましょう。
不安障害には、突然の激しい不安や恐怖を伴う「パニック障害」、人前で強い不安を感じる「社交不安障害」などがあります。これらの症状が日常生活に支障をきたしている場合は、専門家の評価と治療が必要です。
特に注意が必要なのは、自傷行為や希死念慮(死にたいという気持ち)のサインです。リストカット、頭を壁に打ち付ける、「死にたい」「消えたい」といった発言、自殺に関する情報を調べている——これらは緊急性の高い状態。すぐに専門家の支援が必要です。
これらのサインを見つけた場合、決して「注目を引きたいだけ」と軽視しないでください。お子さんを責めたり、行為を否定したりせず、「辛かったんだね」「話を聞かせてくれる?」と、気持ちに寄り添う姿勢を示しましょう。同時に、危険な物(刃物、薬など)は手の届かない場所に保管し、できるだけ早く児童精神科や心療内科を受診してください。
夜間や休日なら、救急相談ダイヤル(#7119)、児童相談所の虐待対応ダイヤル(189)なども利用できます。命に関わることもあるので、躊躇せずに相談してくださいね。
家庭でできる予防と親子関係の保ち方
ストレスサインへの気づきと早期対応
お子さんがストレスを抱えている時には、必ず何らかのサインが現れます。日頃からお子さんをよく観察し、小さな変化に気づくことが大切です。身体面では、食欲の変化、睡眠の変化、頭痛や腹痛、チックや爪噛みなどの癖の増加に注意しましょう。行動面では、部屋に閉じこもる時間が増える、趣味への意欲が低下する、イライラしやすくなる、反抗的になるなどの変化が見られることがあります。
こうしたサインに気づいたら「最近どう?」「何か心配なことある?」と声をかけ、話を聴く時間を持ってください。すぐに話してくれなくても大丈夫。「いつでも話を聞くよ」というメッセージを伝え続けることで、お子さんは安心感を持つことができます。
お子さんにとって、家庭が安心できる居場所であることは、二次障害予防の基盤。学校や外でどんなに辛いことがあっても、家では安心して過ごせる、ありのままの自分でいられる——そんな環境を作ることが何より大切なんです。
思春期の親子関係:距離感とコミュニケーション
思春期は親子関係が変化する時期。適切な距離感とコミュニケーションを保つことが、二次障害の予防にもつながります。
健全な反抗期と二次障害を見極めることも重要です。健全な反抗期なら、親には反抗的でも友人とは楽しく過ごしている、好きなことには意欲的、基本的な生活リズムは保たれています。一方、二次障害が疑われる場合は、すべてに無気力、友人関係も希薄、生活リズムの乱れなどが見られることが多いんです。判断に迷う時は、学校や専門機関に相談してみてください。
ただし、過干渉はお子さんの自立心を妨げ、依存的な関係を作ってしまいます。でも、放任は、困難に直面した時に孤立無援の状態に陥るリスクがあります。その為、大切なのは「見守りながら必要な時に手を差し伸べる」というバランス感覚です。
お子さんと話す時は、まず話を最後まで聴くことを心がけましょう。途中で遮ったり、すぐにアドバイスしたりせず、お子さんの言いたいことを全部聴いてから反応する。また、「でも」「だって」といった否定語を使わず、「そうなんだね」「そう感じたんだね」と受容的な言葉で返すことが大切です。「何かあった?」「話を聞かせて」と、いつでも扉を開いておくことを意識してみましょう。
成功体験を積める環境づくりの工夫
失敗体験ばかりが積み重なると自信を失ってしまうので、意識的に成功体験を積める機会を作っていきましょう。お子さんの得意なことや好きなことを見つけて、それを伸ばす機会を提供してください。絵を描くこと、ゲームのスキル、動物の世話、料理——何でも構いません。得意分野で「できた」という経験を積むことが、全体的な自信につながります。
課題は小さく分割して、達成可能なレベルに設定することも効果的です。「部屋全体を片付ける」ではなく「机の上だけ片付ける」というように、確実にできることから始めてみましょう。成功したら、具体的に褒めることも忘れずに。「机がきれいになったね。気持ちいいね」というように、何がどう良かったのかを伝えることで、お子さんは自分の行動と成果の関係を理解しやすくなります。
また、悩みや不安を相談できる相手がいることも重要です。保護者、きょうだい、祖父母、学校の先生、スクールカウンセラー——お子さんが信頼できる大人とのつながりを大切にしてください。保護者以外にも相談できる相手がいると、お子さんは問題を抱え込まずに済みます。複数の視点からのアドバイスを得られることも、成長にプラスになりますよ。
専門的支援の活用と保護者自身のケア
二次障害の予防や対応には家庭での関わりだけでなく、専門的な支援を活用することも重要です。また、保護者の方自身が知識を深め、サポートを受けることも、お子さんを支える力になります。
医療機関・カウンセリング・地域支援の活用
二次障害が疑われる状態が見られた場合、医療機関での専門的な評価と治療を受けることが大切です。児童精神科や心療内科では、お子さんの状態を総合的に評価し、カウンセリングなどの心理療法、必要に応じて薬物療法なども含めた治療を提供してもらえます。
受診を検討するタイミングの目安は
・気になる症状が2週間以上続いている
・日常生活に明らかな支障が出ている
・本人が「辛い」「助けてほしい」と訴えている
こういった場合です。「病院に行くほどではない」「思春期だから仕方ない」と様子を見ているうちに、状態が悪化することもあります。早期の受診・治療が、早期の回復につながることも多いんです。
また、医療機関以外にも、地域には様々な相談窓口や支援サービスがあります。発達障害者支援センターでは発達障害に関する相談や情報提供、教育相談センターでは不登校や学校での困りごとの相談、放課後等デイサービスでは居場所の提供や活動を通じた支援を受けることができます。お住まいの自治体の障害福祉窓口や保健センターに問い合わせれば、利用できるサービスの情報を得られます。「こんなことで相談していいのか」と迷わず、困った時には気軽に相談してみてください。
保護者が学べる機会と自身のケアの大切さ
発達障害や二次障害について、保護者の方自身が学ぶことも、お子さんを支える大きな力になります。人間力認定協会の児童発達支援士やメンタルヘルス支援士のような資格講座では、発達障害の特性や支援方法について体系的に学ぶことができます。
こうした学びを通じて、お子さんの行動の背景をより深く理解し、適切な関わり方を身につけることができるでしょう。また、同じ立場の保護者との交流も、貴重な情報交換や精神的な支えになります。自治体や支援団体が開催する保護者向けの勉強会や講演会も知識を深める良い機会になります。
また、子どものケアももちろん大切ですが、「保護者の方自身の心の健康を保つこと——これが実はとても重要なんです。
思春期の発達障害のある子どもを支えることは、大きなストレスを伴うことも多いでしょう。でも、保護者の方が心身ともに健康でなければ、お子さんを適切に支えることは難しくなります。自分自身のケアも、お子さんのケアと同じくらい大切なんです。相談できる相手を持つ、趣味や休息の時間を確保する、必要な時には専門家のカウンセリングを受ける——自分自身をケアする方法を見つけてください。パートナーや家族と役割を分担し、一人で抱え込まないことも重要です。
保護者の方が笑顔でいられることが、お子さんにとっても最大の安心材料。完璧な親である必要はありません。できる範囲で、無理なく、お子さんと一緒に成長していく——そんな姿勢が大切なんです。
まとめ:二次障害は予防できる。早期対応が鍵!
発達障害のある子どもの思春期は、確かに様々な困難が表面化しやすい時期です。でも、適切な理解とサポートがあれば、二次障害を予防し、健やかな成長を支えることができます。
この記事でご紹介した内容は、専門家ではない保護者の方ができることを中心にまとめました。日常の関わりの中で、お子さんの変化に気づき、必要な時には専門家の支援を求める——それが二次障害予防の基本です。大切なのは、一人で抱え込まないこと。様々な支援を活用しながら、お子さんと一緒に困難を乗り越えていきましょう。完璧を目指す必要はありません。できることから、一つずつ取り組んでいけば大丈夫です。
思春期は確かに大変な時期ですが、お子さんが自分らしく成長し、自立に向かっていく大切な時期でもあります。保護者の方の温かい理解と支えが、お子さんの未来を明るくする力になります。焦らず、諦めず、希望を持って、お子さんの成長を見守り、支えていってくださいね。思春期のお子さんと向き合う保護者の皆さんを、心から応援しています。
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