発達障害のきょうだい児支援ガイド【健常きょうだいへの関わり方と心のケア】

発達障害のあるお子さんを育てている保護者の方の中には、「健常のきょうだいに我慢させてしまっている」「きょうだいへの関わりが十分にできていない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

発達障害のある子どもの兄弟姉妹、いわゆる「きょうだい児」は、特有の心理的負担や課題を抱えることがあります。しかし、適切な理解とサポートがあれば、きょうだい児も健やかに成長し、家族全体がより良い関係を築いていくことができます。

今回の記事では、きょうだい児が直面する課題と、保護者の方ができる具体的な支援方法について解説していきます。年齢別の説明方法から日常的な関わり方、専門的な支援・実践的な内容を紹介していきますね。

目次

きょうだい児が抱える心理的負担と課題

発達障害のある兄弟姉妹と一緒に育つ中で、特有の心理的な負担を抱えることがあります。きょうだい児の年齢や性格、家庭環境によって異なりますが、多くのきょうだい児に共通する課題もあります。まずは、きょうだい児が直面しやすい心理的な問題について確認していきましょう。

「我慢する子」になりやすい理由

きょうだい児の多くは、幼い頃から「我慢」を覚えていく傾向があります。発達障害のある兄弟姉妹がパニックを起こした時、保護者の方はどうしてもそちらに注意を向けざるを得ません。その様子を見ているきょうだい児は、「今は自分の話をする時じゃない」と感じ取ります。

このような経験が積み重なることで、きょうだい児は自分の気持ちや要求を表に出さない「良い子」になっていくことがあります。保護者の負担を減らしたい、迷惑をかけたくないという優しさから、自分のことは後回しにしてしまうのです。

しかし、我慢を重ねることは、きょうだい児自身の心の負担となり、長期的にはストレスや不満が蓄積していく可能性があります。「良い子」であることを求めすぎず、きょうだい児も自分の気持ちを表現して良いという環境を作ることが大切です。

親の注目が偏ることへの寂しさ

どうしても発達障害のある子どもへの対応に時間とエネルギーが必要になるため、きょうだい児は「自分は後回しにされている」と感じることがあります。保護者の方は平等に接しているつもりでも、客観的に見ると関わる時間や注目の量に差が生じていることもあるでしょう。

特に、学校行事や習い事の送迎、宿題の見守りなど、本来であれば十分に関われるはずの場面で、発達障害のある子どもへの対応が優先されることは少なくありません。きょうだい児はこうした状況を理解しながらも、心の中では寂しさや不公平感を抱えています。

この寂しさは、時に「もっと自分を見てほしい」という気持ちの表れとして、わがままな行動や反抗的な態度として現れることもあります。表面的な行動だけでなく、その背景にある感情に気づくことが重要です。

友達や周囲への説明の困難

学齢期になると、きょうだい児は友達に兄弟姉妹のことをどう説明すれば良いか悩むことがあります。「なぜあの子は変わった行動をするの?」「どうして特別扱いされているの?」と聞かれた時、年齢によっては適切に説明することが難しいかと思います。

また、「家に友達を呼びにくい」「兄弟姉妹の行動で恥ずかしい思いをする」「地域で注目を浴びることがある」など社会的な場面での困難も経験します。こうした状況は、きょうだい児の自尊心や友人関係に影響を与える可能性があります。そのため、きょうだい児が友達や周囲にどのように説明するか、年齢に応じた言葉を一緒に考えておくことも、大切な支援の一つです。

 

年齢別のきょうだい児への説明方法

発達障害のある兄弟姉妹について、きょうだい児にどのように説明するかは多くの保護者の方が悩むポイントの1つです。説明の内容や方法は、きょうだい児の年齢や理解度によって変わってきますが、年齢別の効果的な説明方法と伝える際に大切にしたいポイントを紹介したいと思います。

幼児期(3-6歳):シンプルな言葉で伝える

幼児期のきょうだい児には、難しい専門用語や詳しい説明は必要ありません。「○○ちゃんは、大きな音が苦手なんだよ」「急に予定が変わると不安になっちゃうんだ」といった、具体的で分かりやすい言葉で伝えましょう。また「病気」や「障害」という言葉を使うかどうかは、お子さんの理解度や家庭の方針によります。無理に使う必要はありませんが、使う場合は「それは悪いことじゃないよ」というメッセージも一緒に伝えることが大切です。

幼児期のきょうだい児は、説明よりも日常の中で自然に理解していくことも多いです。「みんな違って、みんないいんだよ」という価値観を、普段の関わりの中で伝えていきましょう。

児童期(7-12歳):特性の理解と共感を育てる

小学生になると、きょうだい児はより具体的な説明を求めるようになります。「発達障害」という言葉を使って説明することも一つの方法です。絵本や子ども向けの書籍を一緒に読みながら、理解を深めていくのも良いでしょう。またこの時期には、「なぜ特別扱いされるのか」という不公平感を持つこともあります。発達障害のある子どもが必要とする支援は「特別扱い」ではなく「その子に必要な配慮」であることを丁寧に説明しましょう。

思春期(13-18歳):深い理解と自立のバランス

思春期のきょうだい児は、より深い理解力を持つ一方で、自分自身のアイデンティティ形成に悩む時期でもあります。発達障害についてより専門的な情報を求めることもあれば、逆に距離を置きたいと感じることもあるかと思います。きょうだい児の気持ちや選択を尊重することが特に重要です。「兄弟姉妹の世話をしてほしい」という期待を押し付けず、きょうだい児が自分の進路や人生を自由に選択できるよう支えましょう。

一方で、きょうだい児が家族の一員として関わりたいと思った時には、その気持ちを歓迎し、適切な役割を持てるようサポートすることも大切です。バランスを取りながら、きょうだい児の意思を第一に考えていきましょう。

青年期以降:家族としての関係性の再構築

成人後のきょうだい関係は、より対等で自律的なものになっていきます。この時期には、改めて家族としての関係性や、将来的な支援の在り方について話し合う機会を持つことが有益です。きょうだい児が抱えてきた思いや、これからの希望について率直に話し合える関係を築くことができれば、家族全体にとって良い結果につながるでしょう。また、必要に応じて専門家を交えた話し合いの場を設けることも一つの方法です。

 

きょうだい間のトラブルへの対応法

どの家庭でも兄弟姉妹間のけんかやトラブルは起こりますが、発達障害のある子どもとのきょうだい関係では特有の難しさがある場合もあります。きょうだい間のトラブルに対する対応方法の例をいくつか紹介したいと思います。

けんかや衝突が起きた時の仲裁方法

きょうだい間のけんかは、どの家庭でも起こる自然なことです。発達障害のある子どもとのけんかの場合、コミュニケーションの難しさから誤解が生じやすく、エスカレートすることもあります。

けんかが起きた時は、まず双方の安全を確保し、落ち着くまで待ちましょう。その後、それぞれの言い分を聞き、どちらか一方だけを責めないことが大切です。発達障害のある子どもの行動には理由があり、きょうだい児にも感情があります。「○○ちゃんは、こう思ったんだね」「△△くんは、こう感じたんだね」と、両方の気持ちを言語化して認めることで、お互いの理解が深まります。解決策も一緒に考え、次回に活かせるようサポートしましょう。

発達障害のある子への配慮ときょうだいの公平性

発達障害のある子どもには、特性に応じた配慮が必要です。しかし、それがきょうだい児から見て「不公平」に映ることもあります。このバランスを取ることは、保護者の方にとって難しい課題の一つになります。大切なのは、「平等」と「公平」の違いを理解することです。全員に同じ対応をするのが「平等」、それぞれに必要な支援をするのが「公平」です。この考え方をきょうだい児にも伝えることで、理解が深まる可能性があります。

「お兄ちゃん・お姉ちゃんだから」という言葉の使い方

「お兄ちゃんだから我慢して」「お姉ちゃんなんだから譲ってあげて」という言葉は、きょうだい児に大きな負担を与えることがあります。年齢が上というだけで、常に我慢や譲歩を求められることは、きょうだい児の自尊心を傷つける可能性があります。もちろん、年齢に応じた責任や役割を持つことは成長の一部です。しかし、それは「兄弟姉妹が発達障害だから」という理由ではなく、成長の過程として自然に身につけていくものでしょう。「いつも我慢してくれてありがとう」という感謝の言葉とともに、「我慢しなくていい時もあるよ」「あなたの気持ちも大切だよ」というメッセージも伝えることが重要です。

 

保護者の関わり方のバランス

多くの方が発達障害のある子どもへの支援に集中しがちになってしまうため、「バランスよく接するためにはどうしたら良いのか?」と多くの保護者の方が直面する課題です。この時に完璧を目指す必要はありませんが、意識的にバランスを取る工夫をすることできょうだい児の心の安定につながります。

「比較しない」「役割を押し付けない」の実践

「○○ちゃんはできるのに」「△△くんより優秀だね」といった比較の言葉は、きょうだい間の関係を悪化させる原因になります。それぞれの子どもを、他の子との比較ではなく、その子自身の成長として見ていきましょう。また、「お世話係」「通訳係」など、きょうだい児に特定の役割を固定化してしまうことも避けたいものです。きょうだい児が自発的に手伝ってくれる時は感謝しつつも、それが義務にならないよう注意しましょう。

両方の子どもを認める声かけのコツ

発達障害のある子どもへの支援や配慮に関する言葉が多くなると、きょうだい児は「自分は認められていない」と感じることがあります。意識的に、両方の子どもに対して肯定的な声かけをするよう心がけましょう。「今日は○○ちゃんも△△くんも、それぞれ頑張ったね」「二人とも大切な家族だよ」といった言葉で、両方の存在を認めます。特に、きょうだい児が我慢したり協力してくれたりした時には、「ありがとう」「助かったよ」と具体的に感謝を伝えましょう。

また褒める時は、結果だけでなく過程や努力を認めることで、きょうだい児の自己肯定感を育てることができます。

 

きょうだい児の心のケアと居場所づくり

心の健康を守るためには「気持ちを安全に表現できる環境」と「自分らしくいられる居場所」が必要と言われています。家庭の中だけでなく地域や学校も含めた多層的な支援体制を整えることで、きょうだい児は安心して成長していくことができます。ここでは、きょうだい児の心のケアと居場所づくりの例を紹介したいと思います。

きょうだい児の気持ちを聴く時間の作り方

きょうだい児の心のケアで最も大切なのは、気持ちを表現できる時間と場所を持つことです。日常の中で、「最近どう?」「何か困っていることある?」と声をかけ、話を聴く姿勢を示しましょう。話を聴く時は、アドバイスや解決策を急がず、まずは共感することが重要です。「そうだったんだね」「そう思ったんだね」と、きょうだい児の感情を受け止めることで、安心して気持ちを表現できるようになります。また、言葉で表現することが苦手な場合は、絵を描く、日記をつける、好きな活動を一緒にするなど、別の方法でコミュニケーションを取ることも有効です。

「話してもいいんだ」と感じられる環境

きょうだい児の中には、ネガティブな感情を表現することに罪悪感を持つ子もいます。「兄弟姉妹のことで文句を言ってはいけない」「親を困らせてはいけない」と思い込み、本音を隠してしまうケースも。そうならないように保護者の方から「嫌だと思う気持ちがあってもいいんだよ」「何でも話していいんだよ」というメッセージを伝えることで、きょうだい児は安心して気持ちを表現できるようになります。否定的な感情を持つことは悪いことではなく、それを適切に表現し、対処する方法を学ぶことが大切です。

きょうだい児自身の活動や趣味を応援する

「自分のための時間」を持つことは、心の健康にとって非常に重要です。習い事、スポーツ、友達との遊びなど、きょうだい児が楽しめる活動を積極的に応援しましょう。発達障害のある子どもの予定を優先しがちな状況でもきょうだい児の活動も同じくらい大切にすることを意識します。時には他の家族や支援者の協力を得ながら、きょうだい児の活動を優先する日があっても良いでしょう。

 

きょうだい児向けの支援プログラムと相談先

きょうだい児の会・ピアサポートグループ

全国各地で、きょうだい児が集まる「きょうだい児の会」や「シブリングサポート」といった活動が行われています。同じ立場のきょうだい児同士が交流することで、「自分だけじゃないんだ」という安心感が得られます。こうした会では、遊びやレクリエーションを通じて交流したり、年齢に応じて気持ちを話し合ったりする機会があります。専門家がファシリテーターとして関わることも多く、安全な環境で自由に表現できる場となっています。

専門家への相談(カウンセリング等)

きょうだい児が強いストレスを抱えていたり、学校生活に支障が出ていたりする場合は、専門家への相談も検討しましょう。児童相談所、教育相談センター、民間のカウンセリングルームなど、相談先は複数あります。臨床心理士や公認心理師などの専門家が、きょうだい児の気持ちを丁寧に聴き、適切なサポート方法を一緒に考えてくれます。カウンセリングを通じて、きょうだい児が自分の感情を整理し、健全に表現する方法を学ぶことができます。また相談することは恥ずかしいことではなく、多くの人が利用しており、必要な時に適切な支援を受けることは、きょうだい児の健やかな成長を守ることにつながります。

保護者が学べる資格講座や研修

きょうだい児支援も含めた発達障害への理解を深めたい保護者の方には、専門的な講座や研修に参加する方法もあります。人間力認定協会の児童発達支援士のような資格講座では、発達障害のある子どもだけでなく、きょうだい児を含めた家族全体への支援についても学ぶことができます。こうした学びを通じて、保護者の方自身が専門的な視点を持つことで、きょうだい児への関わり方にも新しい気づきが得られる可能性があります。また、同じような立場の受講者との交流も貴重な情報交換の場となります。

 

まとめ:発達障害のきょうだい児支援ガイド

きょうだい児支援は、発達障害のある子どもへの支援と同じくらい重要です。きょうだい児が心の負担を抱えすぎることなく、自分らしく成長していけるよう、意識的なサポートが必要です。この記事でご紹介した方法の中から、まずはできることを一つずつ試してみてください。(個別の時間を作る、気持ちを聴く、学校と連携するなど)いきなり全てをやる必要はありません!小さな一歩から始めていきましょう。また、きょうだい児への配慮は決して発達障害のある子どもへの支援をおろそかにすることではありません。家族全員がそれぞれ大切にされ、自分の人生を歩んでいける。そんな家族の形を、一緒に作っていきましょう。そして、困った時には一人で抱え込まずに必要に応じて専門家や地域の支援を頼りながら焦らず進めていきましょう!

 

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