発達障害の子どもの感情コントロール訓練法【怒り・不安・こだわりへの実践的対応】

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「うちの子は些細なことで大パニックになってしまう」「強いこだわりで日常生活が回らない」「不安が強くて新しいことに挑戦できない」など発達障害のあるお子さんの感情コントロールに悩んでいる保護者の方は多いのではないでしょうか。

感情のコントロールは、発達障害のある子どもたちにとって特に難しい課題の一つです。しかし、適切な理解と具体的な訓練方法を知ることで、お子さんの感情コントロール能力を少しずつ育てていくことができます。

この記事では、発達障害の子どもの感情コントロールについて、脳科学的な背景から具体的な訓練方法まで、保護者の方が家庭で実践できる内容を中心に詳しく解説します。怒り、不安、こだわりという3つの主要な感情や行動パターンへの対応法を紹介していきたいと思います。

 

発達障害の子どもが感情コントロールを苦手とする理由

脳の機能的な特性と感情調整の困難さ

発達障害のある子どもたちが感情のコントロールを苦手とするのには脳の機能的な特性が関係しています。

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの場合、感覚の過敏性や社会的な状況の理解の困難さが感情の激しい反応につながることがあります。また、ADHD(注意欠如多動症)のある子どもでは、衝動性の高さや注意の切り替えの難しさが、感情の爆発を引き起こしやすくなります。

これらは決して「わがまま」や「しつけの問題」ではなく、脳の発達的な特性によるものです。このことを理解することが、適切な支援の第一歩となります。

感情の認識と言語化の困難

多くの発達障害のある子どもたちは、自分の感情を認識したり言葉で表現したりすることに困難を抱えています。「今、自分がどんな気持ちなのか」を理解できないまま、感情が爆発してしまうことも少なくありません。

また、感情の強度を調整することも難しく、「少し嫌だ」という感情が一気に「とても嫌だ」に飛躍してしまうこともあります。そのため、感情の段階を理解して適切な表現方法を学ぶことが、感情コントロールの基盤となっていきます。

予測できない状況への不安と混乱

発達障害のある子どもの多くは、予測できない状況や急な変更に強い不安を感じます。これは、見通しを持つことで安心感を得る傾向が強いためです。予定が変わったり、期待していたことが実現しなかったりすると大きな混乱や感情の爆発につながることがあります。

このような特性を理解した上で、予測可能性を高める工夫や変化への対応力を少しずつ育てていく支援が重要となっていきます。

 

感情の見える化とセルフモニタリング

感情温度計を活用してみよう

感情コントロールの第一歩は、自分の感情を認識することです。そのために有効なツールが「感情温度計」です。これは、感情の強さを視覚的に表現するもので、0度(落ち着いている)から100度(最高に怒っている・不安)まで、自分の感情の状態を数値で表します。

やり方はとても簡単で、温度計のイラストを壁に貼り、お子さんが自分の今の感情の温度を指さすことから始めてみましょう。最初は大人が「今は30度くらいかな?」と一緒に確認しながら、徐々にお子さん自身が判断できるようサポートします。

感情温度計を使うことで、お子さんは「怒りが爆発する前の段階」を認識できるようになっていきます。

カラーゾーンの設定

感情温度計をさらに活用しやすくするために、温度を色分けする方法があります。例えば

  • 0-30度を青(落ち着いている)
  • 31-60度を黄色(注意が必要)
  • 61-100度を赤(危険)

というように色で区分します。

お子さんが黄色ゾーンに入ったら、「クールダウンの方法を実践する合図にする」など、具体的な行動と結びつけることでより実践的なツールになります。視覚的な情報は、発達障害のある子どもにとって理解しやすく効果的な支援方法の一つです。

感情日記の継続

お子さんの発達段階に応じて、簡単な感情日記をつける方法も効果があります。一日の中で感じた感情を、絵や記号、簡単な言葉で記録していきます。これにより、どんな時にどんな感情が起こりやすいかのパターンが見えてくることがあります。

保護者の方も一緒に感情日記をつけることで、お子さんは「感情について話すことは普通のこと」と理解しやすくなっていきます。また、家族でお互いの感情を共有する時間を持つことで、コミュニケーションも深まります。

 

怒りへの対応とアンガーマネジメント実践法

怒りが爆発する前には、必ず何らかの前兆サインがあります。お子さんによって異なりますが、体が緊張する、声が大きくなる、特定の動作を繰り返すなど、様々なサインが現れます。これらのサインをリスト化してみましょう。

リスト化した内容を使い、お子さん自身にも「怒りそうな時、体はどうなる?」と一緒に確認することで自己理解が深まります。サインに気づいたら、次のステップとしてクールダウン方法を実践してみましょう。

クールダウンの場所と方法の確保

家庭内に「クールダウンスペース」を設けることで、感情コントロールをサポートできます。お子さんの好きなクッション、落ち着く音楽、感触の良いおもちゃなど、リラックスできるアイテムを置いておきましょう。怒りを感じたら、自分からこの場所に移動できるよう普段から練習しておくことが大切です。

クールダウン方法には、深呼吸、数を数える、好きな音楽を聴く、感触のあるものを触るなど、様々な選択肢があります。自分に合った方法を一緒に見つけ、「クールダウンメニュー」として掲示するなど、視覚的にわかるようにしておくこともポイントです。

アンガーマネジメントカードの活用

怒りを感じた時の対処法を書いたカードを作成し、持ち歩けるようにする方法もあります。カードには、「深呼吸を5回する」「信頼できる大人に話す」「10数える」など、お子さんが実践できる具体的な方法を記載します。視覚的な支援は、パニック状態の時でも確認しやすく自分で対処できたという達成感にもつながります。また、カードのデザインはお子さんと一緒に作ることでより主体的な取り組みになります。

 

不安をコントロールする具体的方法

不安の多くは「何が起こるかわからない」という予測不可能性から生まれます。そのため、視覚的なスケジュールを使って一日の流れを示すことで、見通しが立ち不安が軽減される場合があります。絵カードや写真を使ったスケジュールボードを作成し、朝起きてから寝るまでの活動を並べてみましょう。また、活動が終わったら、カードを裏返したり、別の場所に移動することで、「今、どこまで進んでいるか」がより視覚的にわかりやすくなります。

リラクゼーション技法の導入

不安を感じた時に実践できるリラクゼーション技法を身につけることも有効です。年齢や発達段階に応じて、腹式呼吸、筋弛緩法、イメージトレーニングなど、様々な方法があります。

例えば、「お腹に風船があると想像して、ゆっくり膨らませて、ゆっくりしぼませる」という腹式呼吸の方法は、幼い子どもにも理解しやすいでしょう。毎日少しずつ練習することで、不安な時に自分で実践できるスキルとして定着していきます。

不安を言葉にする練習

不安を抱えている時、それを言葉にすることで気持ちが楽になることがあります。しかし、発達障害のある子どもは、自分の感情を言語化することが難しい場合も多いです。

「心配なことがあるみたいだね」「何か気になっていることある?」と、保護者の方から優しく声をかけてお子さんが話しやすい雰囲気を作りましょう。話してくれた時は、否定せず、共感的に受け止めることが大切です。

 

こだわりとの上手な付き合い方

こだわりの理由を理解する

発達障害のある子どもの「こだわり」は、安心感を得るための重要な手段であることが多いんです。同じ順序、同じ物、同じ方法にこだわることで、予測可能性が高まり、不安が軽減されるのです。そのため、すべてのこだわりを無理に変えようとするのではなく、「生活に支障が出ているか」「本人や周囲が困っているか」という視点で、対応の優先順位を考えましょう。日常生活に大きな影響がないこだわりは、認めてあげることも大切です。

柔軟性を育てる小さなチャレンジ

認めてあげることが大切な一方で、強すぎるこだわりが生活の質を下げている場合は少しずつ柔軟性を育てていく必要があります。重要なのは、小さなステップで良いので成功体験を積み重ねることです。

例えば、「いつもと同じ順番」というこだわりがある場合、まず一つだけ順番を変えてみる、次は二つ変えてみる、というように段階的に進めます。変更を受け入れられた時は、しっかりと褒め、「違う方法でも大丈夫だった」という経験を積ませることが大切です。

こだわりを活かす視点を持ってみよう

「こだわりはネガティブなもの」と捉える方もいらっしゃるかと思います。そうではない一面もあります。特定の分野への強い興味や、ルールへのこだわりは、将来的に専門性や強みとして活きる可能性もあります。そのため、こだわりを否定するのではなく、「適切な時間や場所で楽しむ」「他の人の迷惑にならない形で満たす」という方向で調整していくことも大切な視点です。お子さんの特性を理解し、長所として活かせる道を一緒に探していきましょう。

 

家庭でできる感情コントロール訓練

日常生活の中での練習していく

感情コントロールは、特別な訓練の時間だけでなく、日常生活の中で継続的に練習していくことが重要です。朝の支度、食事、遊び、就寝など、日々の活動の中に、感情を認識し、適切に表現する機会が実はたくさんあるんです。

例えば、「今日の給食、好きなメニューが出るから嬉しいね」「妹がおもちゃを壊しちゃって悲しいね」など、日常の中で感情を言葉にする習慣をつけることで、お子さんの感情理解が深まります。保護者の方も、自分の感情を適切に表現するモデルとなることが大切です。

ソーシャルストーリーの活用

特定の場面での適切な行動や感情表現を学ぶために、ソーシャルストーリーという方法があります。お子さんが経験する(または経験する予定の)状況を、絵や写真を使って短い物語にしたものです。

「公園で遊ぶ時のお話」「お友達におもちゃを貸す時のお話」など、お子さんが苦手とする場面を題材に作成します。物語の中で、「こんな時はこう感じるかもしれないね」「こうすると良いよ」というメッセージを伝え事前に心の準備ができるようサポートします。

ロールプレイでの練習

感情コントロールのスキルは、実際の場面で使えるようになることが目標です。そのために、家庭でロールプレイ(役割演技)を行うことも効果的です。

「もしこんなことがあったら、どうする?」という仮想の場面を設定し、お子さんと一緒に演じてみましょう。最初は保護者の方がモデルを示し、次にお子さんが実践します。うまくできたら褒め、難しければ一緒に考えます。ゲーム感覚で楽しみながら練習できる工夫をすると、お子さんも前向きに取り組めるでしょう。

 

まとめ:一歩ずつ、焦らずに進んでいきましょう

発達障害のある子どもの感情コントロールは、一朝一夕に身につくものではなく、数年単位でかかるケースもあります。そのため、焦らずにお子さんの発達段階や特性に合わせて、小さなステップに分けながら経験を積み重ねていくことが大切です。

数多くある方法の中からの1部ではありますが、この記事でご紹介した方法の中からまずはお子さんに合いそうなものを一つか二つ選んで、試してみてください。うまくいかないこともあるかもしれませんが、それは「失敗」ではなく、「お子さんに合う方法を見つけるための大切なプロセス」です。

保護者の方ご自身も、完璧を目指す必要はありません。疲れた時は休み、困った時は専門家に相談しながら、お子さんと一緒に成長していく気持ちで取り組んでいきましょう。

感情コントロールの力は、お子さんが社会の中で自分らしく生きていくためのとても大切なスキルです。保護者の方の温かい理解と支援がお子さんの成長を支える大きな力となります。焦らず、一歩ずつ、お子さんのペースで進んでいってくださいね。

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